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その壁、今こそ越える時。
その壁、今こそ砕く時。

・・・

●越えるべき壁
「ようこ……お前、あいつをどうしたいか……言ってくれ。今は……俺が、ようこの剣になる」
 ――アレが何かはよく分からない。でも、きっと越えるべき壁――
「――倒すわ。正体なんて関係ない、立ちはだかるなら倒すだけ」
 姿勢を低くして構える御津乃廉・灯(白風纏う吸血児・b51863)に、曜子が答える。
『ふん、話はまとまったか?……くく、我も嫌われたものだ……』
 一行の心情を読んだか、地縛霊がいやらしい笑い声を洩らす。
「……こう言う手合いは、苛立ちよりも呆れてしまう」
「……生涯相容れないに板チョコ一枚」
 その笑い声に、嫌悪感も露わに呟く功刀・伊知郎(深紅の錬士・b65782)と志方・雪子(友待・b43513)。
「……貴方も、もう少しマシな歪み方もできたでしょうに」
 そして、いっそ清々しいまでの笑みを浮かべる嘉凪・綾乃(緋楼蘭・b65487)。
「言っておくけど、今から泣きを見るのは貴方の方よ。覚悟はいい?」
 その笑顔が、様々な感情の入り混じった灰色の笑みである事を、何人が気付いたであろうか――
「――さて、無事に合流できましたし……終わらせて帰りましょうか」
 意図してか否か、全員の疲れ切った気分を労わるかのようなイクス・イシュバーン(高校生魔剣士・b70510)の一言が、戦いの口火を切った。

●守るべき誓い
 傷ついた曜子達を一旦後方に下げ、前衛を買って出たメンバーが頭の割れた坊主に殺到する。九頭龍・蓮汰(風の十二方位・b73547)の放つ龍尾が如き蹴りが坊主を捉えると同時、闇のオーラを纏った刃が二度、三度と振るわれた。
「フォアさん、まずはアヤカシを!」
 嘉凪・綾乃の舞に合わせて呪言を紡ごうとしたフォア・トンユエ(正しき闇の導き手・b61331)は、イクスの言葉に意を得たりと狐の耳と尻尾を生やす。
「……妖シ輩ヨ、奔レ」
 舞によりもたらされた清浄な気の中を、小妖怪の幻影が飛び交う。仲間に癒しの力が行き渡るのを感じながら、渡会・綾乃(鬼鋼蜘蛛の巫女・b74204)もまた癒しの力を込め舞う――逸る自身の気持ちを鎮めるように、ただ静かに。
(まずは、落ち着いて、眼前の敵を倒す事に集中しないと……)
 その前で、彼女達を守るように立つ雪子が魔手を伸ばしながら、「そうだ」と姫香を振り返る。
「眞我妻、今回インフィは禁止な」
 主張は色々あるだろうが、とどこかばつの悪そうな顔の雪子に、姫香は首を振る。
「大丈夫です。勝利を収める為に必要なら、私は従います」
 もっとも姫香としては、旗色が悪くなれば最終手段として使うつもりでいたが――少なくとも今は大丈夫だろうと、癒し手の力に身を任せる。
「よし、わしは出る」
 戦闘用の口調に切り替えた鋼誠が一歩前へ。十分に回復した事を見てとった伊知郎が頷き、
「鋼誠、霧影分身術は……」
言いかけて、思わず目を見開く。鋼誠の周囲には既に霧が生じ、彼の姿を二重に見せていた。
 そう、彼は前哨戦の段階で既に霧影分身術を使い、その効果が残っていた。
(見落としたか……)
 ならば仕方無い、と伊知郎は軽く頭を振り、「なんでもない」とだけ返し再び敵に向き直る。
「……?まあいい、取りあえずお主は灰になれ!」
 鋼誠が若干首を傾げつつ、紅蓮撃を坊主に見舞う。その後ろから黒い疾風と化した灯が飛び出し、坊主に猛然と噛みついた。エネルギーを奪うには至らなかったものの、その一撃は坊主に深い傷を残す。
「アニキ、前に出て……『備えて』」
 曜子が自身の情熱を高め姫香に放つのを横目に、薫がアニキを前に送り出す。落とした骨を拾い体勢を立て直すアニキを確認しながら、薫は凍てつく竜巻を巻き起こした。
『オオオォォ……ォォオオオオ!』
 薄氷に包まれた坊主が、恨めしげな声を洩らす。それはやがて怨嗟の込められた叫びとなって、空間を震わせた。
「がっ!」
 強化済みの鋼誠は呪いに締め付けられ、他の者も身体を呪詛に蝕まれる感触に眉を顰める。ダメージはそれほどでもないが、不快感は拭えない。
『くく、そこの男はつくづく学習能力が無いな?過去にも呪詛に身体の自由を奪われ、大切な者を失ったというのにな……』
 可笑しくてしょうがない、といった様子で嘲笑う地縛霊に、少なからず怒りを覚える能力者達。だが、それこそ地縛霊の思う壺で――
『我が憎いか?我が恨めしいか?さあ、憎め、怒れ!この場に溢れる負の感情の全てが、我の力となろうぞ……!』
 傲岸不遜な態度の地縛霊を、思わず睨みつけた渡会・綾乃。その思考が何かで無理矢理塗り潰される感覚に、慌てて目を逸らす。危ういところで幻術から逃れ歯噛みする姿に、地縛霊は嗜虐的な声で笑った。
『して、我にばかり気を取られていて良いのか?』
「鬼が動く、構えろ!」
 はっとして振り返ると、鬼が大刀を振り抜く姿が見える。そして生じた衝撃波の矛先は、
「きゃあっ!」
「曜子ちゃん!」
一行の中でも比較的脆く、支援役を担う少女。ある程度の知性を持つ敵なら、彼女を狙うのは順当とも言える。
「ようこ!」
『ニガサンゾォォォ!』
 守るべき少女に刃が向けられ、激昂する灯。しかし、飛び出しかけたその身体を、車輪の噴いた炎が包む。咄嗟にチェーンソー剣を盾にして直撃を免れる事ができたのは、灯が殺気に満ちた攻撃に対し鋭敏に反応できる――言わば、相性が良かったからに他ならないだろう。
「わ、私は大丈夫……」
 曜子が苦しげな声を出す。身に纏う民族衣装が一撃でズタズタになっているのを見る限り、彼女の身体にも相当な負担がかかっているはずだが……彼女はなおも、凛とした佇まいを崩さない。
「お願い、剣になるなら……最後まで、剣に徹して!」
 それは灯だけでなく、周りの全員に発せられた言葉。自分の未熟が、周囲を惑わせないよう――精一杯の、彼女の強がり。
 そんな曜子の様子を見て、更に嘲りの色を濃くする地縛霊。その背後では、未だ動きを見せない狐の九尾が、ただ静かに揺らめいている――

●貫くべき想い
「はっ!」
 蓮汰が九尾側に回り込むように動き、大地を踏みしめた。練られた気が衝撃波となり、坊主のみならず車輪、九尾、地縛霊をも巻き込まんと広がっていく。
 その時。衝撃波に震えた九尾が、初めて動きを見せた。
 ――ぞわり。
 九尾のうち一本が膨れ、突如として爆ぜる。裂けた尾の中から溢れたのは、闇色の粒子とも影色の霧ともとれる、得体の知れないもの。
「――なっ!?」
 広がる“それ”に飲み込まれた蓮汰の背筋に、悪寒が走った。慌てて逃れようとした脚から力が抜け、よろめく。
「蓮汰君!?」
 不利の重なる味方の状況を見て、嘉凪・綾乃が慈愛を込め舞う。だが、蓮汰は顔を僅かに顰めた。
「力が……」
 身を包んだはずの癒しの力が、身体の中まで浸透しない。それどころか、更に体力を奪われている感覚すらある。
 それだけではない。
「坊主の傷が……!」
 舞を踊る渡会・綾乃の視線の先で、度重なる攻撃に深く刻まれたはずの坊主の傷が、見る間に塞がっていく。
「攻撃と回復……アヤカシの群れか!」
 否、九尾が使ったものは妖狐のそれより性質の悪いものであると、全員が直感する。
「優先順位を上げましょう!」
 イクスが言い放ち、鉄の処女を呼び出す。坊主を両側から挟むそれが閉じ切る前に、灯は二振りのチェーンソー剣を隙間に捻じ込むと、回転速度を一気に引き上げた。
『オオオ、アアアアア!』
 棘が、刃が、十重二十重と坊主に傷を刻みつける。閉じた傷は再び開き、新たなる傷が増えていく。
 鉄の処女から解放された坊主が、追い打ちをかけんと迫る伊知郎から身を守ろうと腕で顔を庇う。だが、伊知郎の黒影剣がその腕を切り落とした。
「鋼誠!」
「応ッ!姫香、続け!」
 それに続くように、頭上から妖気の炎が、顎下から超高速の蹴りが叩き込まれる。
『ウラ……メシヤ……』
「ふん、ようやくまともに喋ったと思ったら……そのまま燃え尽きるが良いわ」
 耐えかねた坊主が、炎に包まれて消滅する。ありきたりな辞世の句に、鋼誠は侮蔑の言葉を投げた。
「さて、次は……」
 雪子が鋭い視線を送り、影を伸ばす――その先は、鬼。
 曜子はその強い眼を、前に立つ者達の背を、傍らで支える者達の手を、万感の思いで見つめていた。

 ――こうして共に在る事が、こんなにも頼もしいと思った事が、これまであっただろうか――

 こみ上げるものを余す事無く情熱に変え、曜子は自身の中で昇華させる。溢れだした力は今までのどれよりも強く、身体の傷も衣装の穴も立ちどころに塞いでいく。嘘のように痛みの引いた事を確かめるように一息つくと、曜子は宣言する。
「誰も倒れさせはしない……私が後ろにいる限り、私が支え続ける限り」
 私ならできる。燃え上がる情熱にそんな確信を抱いた、彼女の決意。
「アニキ、『尻尾』を『斬って』!」
 薫はどこか満足げに頷き、再び吹雪を巻き起こす。吹き荒れる風雪を切り裂いて駆けるアニキを後押しするように、フォアが風の音をも凌駕する叫び声を上げる。
 細剣が一重、二重と翻る。吹雪と叫びに震える九尾――先の攻撃で減ったので正確には八尾だが――にその切っ先が届いた瞬間、それはまた起こる。
「尻尾が……!」
「アニキ、避けて!」
 膨れた尻尾が爆ぜ、裂け目からは先程と同様、得体の知れないものが溢れた。辛うじてかわした蓮汰が飲み込まれたアニキの手を引き助けるが、アニキの反応は鈍い。
『くく、所詮は屍骸。骨だけの身体は砕きやすくて面倒が無い』
 嘲笑う地縛霊が、アニキに狙いを定める。車輪も激しく回転し、アニキを焼き尽くさんと燃え上がる。
「アニキっ」
 冷静な薫にしては珍しい、焦りを滲ませた声に反応したか。あるいは彼自身の矜持や意地か。アニキは地縛霊の光線をレイピアで受け、生じた反動でバックステップし車輪の追撃をかわしてみせた。
『……生意気な』
 思惑の外れた地縛霊が苛立たしげな声を洩らすと同時、鬼が動き出す。振り抜かれた太刀から衝撃波が生じ、
「――同じ轍は踏まないさ」
雪子の日本刀が両断、後衛に届く事無く霧散した。
 周囲の気温が僅かに下がる。ままならない戦況に、空間の主たる地縛霊が苛立っているためだろうか。不愉快そうに眇められた目が、能力者達をねめつける。
 万人の心理を見透かす千里眼も、戦況の趨勢を見通すに至らず。戦況の傾きは、次第に大きくなっていく――

●挫くべき悪意
 蓮汰の龍尾脚が狐の尾の一本を捉える。蓮汰は反撃を予測して身構えるが、尻尾の膨らむ兆候すら見られない。
(……不発?いや、今までの事を考えれば――)
 行きつく結論、それは。
「――今攻撃した尻尾が本体!後は偽物です!」
 蓮汰の声に、本体を隠そうと尻尾が蠢く。だが、いち早く反応した鋼誠の目は誤魔化せない。
「逃がさん!燃えるがいい!」
 燃え立つ炎を宿したクナイが、尻尾に深々と突き刺さる。やはり反撃は無く、金色の毛に引火した魔炎はその所在を明確にした。
「鋼誠、ナイス!」
「アニキ!『火のついた尻尾』を『斬って』!」
 身を蝕む力を払ったアニキに嘉凪・綾乃が祖霊を降ろし、薫が追撃を指示する。一方で薫自身は白銀の鎖鎌を振るい、錘を鬼へと飛ばす。アニキの刃は空を切り、薫の錘は太刀に弾かれたが、それによって僅かな隙が生じる。
「食らえ」
「……我、邪ヲ忌ミ、呪ヒ言以テ苛メル也」
 伸ばされた魔手ががら空きになった鬼の胴体を深々と切り裂き、追従するようにフォアの叫びが身体を震わせる。ミシ、と鬼の身体から軋むような音が聞こえた。
「さて……ここからは制限なし、です」
「尻尾は……任せろ!」
 一旦刃を引いたアニキに渡会・綾乃の降ろした祖霊が宿るのを横目に、イクスが剣を頭上に掲げ回転させる。剣呑な気配に毛を逆立たせた尻尾に肉薄した灯が、その口を大きく開く。
「これは、俺と……ようこの、分!」
 渾身の力で食らいつき、己の内に燻る衝動を全て解き放つ。膨大なエネルギーを灯が飲み干していくに従い、狐の尻尾が一本、二本と消え――やがて、灯の噛みついた尻尾も消滅した。
「お前の企み……上手く、いかなかったな?」
 口元をぬぐいながら、灯が不敵に言い放つ。
 彼らの預かり知らぬところではあるが、この狐の尾は地雷の役割を果たすと同時に、地縛霊が吸収することで体力を大幅に回復させるためのものでもあった。彼らの消耗した頃合いを見計らって回復することで、精神的に疲弊させる意図が地縛霊にはあったのだが……狙いを逸らすため動かさなかった事でむしろ不信を抱かせた事、彼らの戦力を見縊っていた事。この二点が地縛霊の思惑を破綻させており、結果として灯の言葉は正鵠を射たものであった。
「残るは鬼と車輪か」
 伊知郎が頭上で剣を振るう。姫香が風のように走り、車輪の顎に蹴りを叩き込む。曜子は感じる――今こそ、攻勢の時と。
「私だって、回復するだけが能じゃないわ――石になりなさい」
 ゆらりと、狐の耳と尻尾が曜子から生える。地縛霊の頭上を中心に七つの光が輝き、鬼と車輪を石へと変えていく。
『……!……!』
 ギシミシピシと、軋み、ひび割れるような音を立てながら、鬼が太刀を振りかぶる。だが太刀は振り抜かれる事無く、石像と化した鬼はそのまま砕け散った。
『ヌガアアアアアア!』
 車輪がけたたましい叫び声を上げ、暴れる。七星光の妖力を無理矢理に振り払った車輪が、勢いそのままに蓮汰へと襲いかかるが、蓮汰はこれを横に低くステップして回避。更に、
「……来ると分かっていて、当たる奴がいるか」
そのまま足を地面に伸ばし、ベクトルをやや無理に真上に変え跳躍。回避した先を狙った地縛霊の光線を、紙一重でかわす。
「三手、四手先の読みあい。……出来て当然だ」
 悔しければかかってこい、と言わんばかりの蓮汰の態度に、空間全体が刺すような空気へと染まっていった。

●打克つべきもの
 車輪がその炎を散らすまでに、時間はかからなかった。蓮汰の放った震脚の衝撃を高速回転で相殺するも、生じた隙に叩き込まれた伊知郎とイクスの黒影剣は共に強化済み。輻が一本、二本と音を立てて折れ、堪らず耳障りな叫び声を上げる。
「諸共……凍りなさい!」
「アニキ!『車輪』を『狙って』!」
 回復は不要と見た嘉凪・綾乃が、渾身の吹雪を見舞う。冷気で冷たく輝く二刃が車輪の醜い顔を貫くと、車輪に宿った恨みの焔が徐々に弱まり、やがて消えた。
 もはや、邪魔するものは何もない。
(……彼のためだけに手に入れたこの力、今こそ使うときよね……!)
 渡会・綾乃の放つ黄金色の月光が、鋼誠を包み込む。真珠をあしらった指輪と翡翠がはめ込まれた指輪。互いの指輪が柔らかく輝き――
「さあ、行きましょう、鋼誠。私達の力……今こそ」
「……応ッ!」
 鋼誠が、これまでにないほど気概に満ちた声で応える。その全身からは力が溢れ、彼自身が輝いているようにすら見える程だ。
『それがどうした……!何をしたかは知らぬが、お前達のような下賤の者に、我をどうにかできるとでも……!』
「……試してみるか?」
 鋼誠がゆらり、と地縛霊に向き直る。本物の鬼も斯くやという程の気魄が、威圧せんとする地縛霊の勢いを圧し返していく。
「して、わしにばかり気を取られていて良いのか?」
 どこかで聞いたような台詞。地縛霊が気付いた時には既に姫香が肉薄し、雪子の影が斬り裂かんと手を模っている。
『小癪なっ……!』
 結界のようなものが現れ、蹴りを、影を弾く。空中でバランスをとり着地する姫香の陰から灯が飛び出し、噛みつかんと飛びかかる。その動きを読んだ地縛霊が結界を張り防ぐが、その結果曜子の放った幻楼七星光への反応が遅れた。
「……妖シ槍ヨ、貫ケ!」
『ちいっ……愚か者どもが、我を愚弄するか!』
 地縛霊の身体が端から石に変わっていく。動揺を狙うようにフォアが尾獣穿を伸ばすが、やはり結界に弾かれる。
『図に……乗るなっ!』
 石化を振り払った地縛霊が、恨めしげに鋼誠を睨む。精神を塗り潰し加護を打ち消す魔眼が鋼誠を捉えるが、強い絆で紡がれた力は消えるどころか、弱まる気配すら見せない。
『……馬鹿な!我が力、確かに……!』
「私達の絆が、あなたごときに破れるはずが無いでしょう」
 渡会・綾乃が冷たく言い放つ。苛立つ地縛霊がそちらに意識を向ける間を与えないよう、蓮汰が果敢に攻める。
 地縛霊はそれを読み、蓮汰の蹴りを受け止める。
『お前の理想は分かる……だが、来ると分かっていて防御を固めない者はおるまい?』
 少しでも平静を保とうと、地縛霊がさも自身が有意であるかのような物言いをする。
 しかし。
「世界の広さを知らず、井の中の頂上に登り、世界を識ったかの様な振る舞いは愚行の極みだ」
 蓮汰の蹴りによって生まれた死角。それに気付けば、伊知郎の赤い剣が回避不能な位置まで迫っている。
「身の程を弁えるのだな」
 闇のオーラを纏った赤い剣が、地縛霊を深々と切り裂く。力を奪われる感覚に目を剥く地縛霊が視界の端に捉えたのは、周囲に細氷を纏う嘉凪・綾乃。
「一人で全部を避けきれるかしら。私達は、貴方と違って独りじゃないわよ?」
 一方から影が、一方から狐の尾が、伸ばされようとしている。
『なめるな……人間風情が、来訪者ごときが、この下郎どもがああああッ!』
 地縛霊はここに来て冷静さを失い、結果、間に合わなかった。
 吹雪がその身を凍らせ、凍ったところを砕くようにダークハンドが切り裂き、尾獣穿が貫く。
「何言われようが知った事じゃないな。アレが誰かに構ってる隙に全員でぼこるだけだ」
 シンプルイズベスト、前衛なんてやる事は斬って捨てる事だけだもの――とは、雪子の弁。
「声を掛けたり機を見るのはいつもしてるだろ?だから、特段気負う必要性はゼロって事さ」
 いつも通り。相手が何であろうが、例え心を読んでこようが、関係ない。
「……速やかに成敗し、玉城さんを取り戻す……」
 目的は、それだけなのだから。
「心が読めようと読めなかろうと関係ないわ。受けられるものなら、受けてみなさい?」
 渡会・綾乃が冷たい月光を放つ。地縛霊はそれを結界で弾くが、徐々に余裕が無くなりつつあるのは明白だった。
「さて、どう出るのか……もちろん楽しませてくれるんだよね?」
 そんな地縛霊を見たイクスが可笑しくて堪らないといった風に、場違いに見えるほどいい笑顔のまま一歩踏み出す。
「それに人の闇は複雑だ、全てを読んだ気になるなど片腹痛い」
『おのれ、言わせておけば……!』
 どうせ、お前は攻撃を予測して回避、しか出来ないんだろう?という言葉の裏にある意味を読みとり、地縛霊が憤慨する。
「滑稽だね……アニキ」
 アニキが骨を鳴らし、嗤う。レイピアを逆手に握り跳躍したアニキを、鎖鎌を振りかぶる薫を、闇を纏う剣を構えるイクスを順々に見て、地縛霊は最も威力の高い黒影剣を確実に防ぐ事を選んだ。
『お前達兄弟の攻撃など、取るに足らん……!』
「では、わしらの攻撃はどうかのう?」
「耐えられるのなら、耐えてみてください」
 気を鎮めた鋼誠が横から、姫香が上から迫る。地縛霊は迷わず、鋼誠より攻撃力の高い姫香のクレセントファングを確実に防ぐ態勢を整えるが、直後に自らが読み誤った事を知る事になる。
「水練術・秘技!霧影……爆水掌!」
 鋼誠より攻撃力が高い、とはあくまで地の攻撃力に過ぎない。相愛満月によって攻撃力が通常の倍以上に増加した鋼誠の霧影爆水掌は、超振動による追撃も相まってとてつもない威力を発揮した。
 それは言うなれば、地縛霊が衝撃と驚愕により、前後不覚に陥る程度の威力。
『おっご、あ、ああああ!?』
 地縛霊が目を剥き、のたうつ。人に例えるなら、内臓への衝撃で胃酸が逆流しているところだろうか。
『ば、馬鹿な……こんな……』
「馬鹿はあなたよ」
 淡々とした声。霞む目に映るのは、七つの星の光。
「驕り、高ぶり、他を嘲り食いものにした報い。……一度昇天させられて終わるくらいなら、安いものだと思う事ね」
 昇天。自身が間もなく消されるであろうという事実に、地縛霊が初めて恐怖を感じる。
『ひ……』
 姿形の無い口が何かを紡ごうとするが、音声にならない。なる前に、灯の貫手が、地縛霊の身体を貫く。
「これで……終わり、だ!」
 言葉と共に引き抜く。地縛霊の血液に当たるものだろうか、何かどろりとしたものが灯の手に纏わりついている。それは一瞬、そのまま灯の手の中に吸い込まれかけ――すぐに手からこぼれていった。
 灯は躊躇なく口を開き、こぼれゆくそれをも飲み込むようにして、地縛霊に噛みつく。

 灯が口を離すのと、石と化した残滓が砕け散るのは、ほぼ同時だった。

●進むべき道
「きゅぅ……」
 洞窟の外。不安そうにふよふよと浮かぶすずの目の前で、急に洞窟が土壁ごと消える。
「きゅぴ?……もきゅー!」
 洞窟の消えた後に待ち焦がれた姿を見て、すずが飛び出す。それを抱きとめた雪子が「ただいま」と撫でると、ようやく辺りに安らかな空気が満ちた。

「心配……したんだからっ……!」
 早速目に涙を浮かべ、鋼誠の胸に飛び込む渡会・綾乃。どんなに心配したか、言いたい事は色々あるけれど……結局、身体が先に動いてしまう。
「……あー、うん、悪かった。まさかここまでだったとはなあ……」
 目を逸らす鋼誠。戦った相手へと一礼を捧げていた蓮汰が、ややジト目で鋼誠を見る。
「……二次遭難は避ける。それが基本です」
 苦笑いを浮かべる鋼誠の背中には、きっと冷や汗が滝のように流れていたに違いない。
 もちろん、蓮汰の言葉は彼なりの気遣いから来るものであろうし、鋼誠だけでなく薫や姫香にも向けられたもの。かつ、予報の重要度を見誤った予報士にも非があるといえばあるのだが……悲しいかな、最年長の鋼誠はその戦闘スタイルよろしく、敢えて責めの矢面に立つのであった。

 他方。伊知郎の大きな背に隠れるのは、嘉凪・綾乃。
「……この様な時は、呆れる程に君は頑固なのだからな」
「だ、だって……」
 上手く言えないけれど、ひどく申し訳ない。そんな風に感じ、遠慮していた彼女だが――
「――綾乃さん!」
 駆け寄ってきた、小さな青い風。静かに背中を押され、おずおずと、でもしっかりと抱きとめて。
「えへへ……ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした」
「ううん……お帰り」
 まるで姉妹の様なその光景に口元を緩め、伊知郎は「お疲れ様」と独り言つ。

「これで……いいか?」
 歩み寄る灯の言葉に、曜子は小さく頷く。
「……ありがとう」
 目の前に曜子が、彼女がいる――その事実から灯の全身に安堵が溢れていく。同時に、戦闘中何度も解放した衝動の余波もあり、灯の頭が睡魔に引き込まれていく。
「ようこ……お前の…………本当の……かあちゃの事、知りた…………くない……か?」
 頭をくらり、と揺らしながら問う灯に、曜子は少しだけ考えるそぶりを見せた。
「……分からない。知りたいのかも知れないし……もう、分かっているのかも知れない。でも……今日は、もういいわ」
 曜子の答えに「そっか」と辛うじて答えた灯は、眠気の箍が外れたらしくその場で寝込んでしまう。傾いだ灯の身体を反射的に受け止めた曜子は、
「……ありがとう」
と、もう一度小さく呟いた。
「――銀誓館でなら、力を手放すこともできますよ?」
 しばらく様子を見ていた蓮汰が、余計な事とは思いつつも曜子に問いかける。
「その必要は無くなりました。……いえ、もともと無かったんです。私は“玉城曜子”……大事なのは、それだけですから」
 曜子はまるで宣誓するように、空を見上げながら答えた。

「取りあえず良かったですね。それぞれ思う処はあるとは思いますが……」
「そうだね……でも、それで良いんじゃないかな……」
 一歩引いて見守っていたイクスと薫。イクス自身も、今回の一件――特に、来訪者という存在に対する、各々の価値観――には、少々思う処があったのだが。
「それぞれに、思う処があるから……理解し合おうとして……絆が、生まれるんじゃないかな……」
 的を射ているような、射ていないような薫の言葉に、「そうかも知れませんね」と静かに笑みをこぼす。
「でも……サトリにしろ、女性にしろ、玉城さんの心の隙間に目を付けたのは間違いありませんわ」
 その隙間を、自分達が埋められるだろうか――フォアの不安気な言葉に、薫が指である方を指し示す。
「大丈夫じゃないかな……絆、早速生まれそうだしね……」
 薫の指の先を見たフォアは、一瞬驚いた表情になり、すぐに口元を綻ばせた。

「みんな、お疲れさん。お腹すいたから早く帰ろうぜ」
 ここは私の出番じゃない、と一歩離れていた雪子が、声をかける。お疲れ様ー、と皆に抱きつき回っていたすずが「もきゅぴ!」と元気よく手を上げた。
「あ、僕も腹減りました。皆で何か温かいものでも食べましょう」
「お、いいな!そいじゃ、迷惑料も兼ねて何かおごるぜ。何ならアニキとすずもいるし、俺が何か作るか!」
 笑い合いながら、帰路につく一行。冴えた空には既に、無数の星々が瞬いている。
(皆……)
 一行の一番後ろ。ついて歩く曜子は、空を見上げていた。
(本当に、ありがとう……私、本当に幸せ者……)

 彼女の顔は、暫し忘れかけていた――心からの笑顔に、満ちていた。

・・・

冒険結果:成功!
重傷者:無し
死亡者:無し
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蛍月
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このブログを管理する者であり、柚之葉・薫(b68352)と鬼頭・鋼誠(b70561)と眞我妻・姫香(b76235)と玉城・曜子(b76893)の背後に当たる人。大体男2人に滅多打ちにされてる。
※このブログで使用されるキャラクターイラストは、株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のイラストとして、管理人『蛍月』が作成を依頼したものです。  イラストの使用権は管理人『蛍月』に、著作権は各イラストマスター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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