思い出す、秋の日。
私の大切な、記念日。

・・・

「姫香、誕生日おめでとうな」
「はい、ありがとうございます」
　9/19。眞我妻・姫香の誕生日―今回は知り合いからプレゼントを貰ったとかで、姫香は上機嫌だ。
「鋼誠様、誕生日って何度来ても嬉しいですね」
「そうか？まあ、そうかもな」
（…誕生日、か…）
　本来、姫香に誕生日は無かった。
　彼女と出会った時には既に鋏角衆だったし、いつ生まれ、何年生きてきたかの記憶は本人には殆ど無い。
「…姫香」
「はい？」
　鋼誠は、何となく訊いてみる事にする。
「お前、やっぱ自分の本当の誕生日とか、気になったりすんのか？」
　その質問に、姫香は暫しキョトンとした顔をする。
「本当の、誕生日…」
「ほら、今日って正確には、俺とお前が出会った日だろ？」
　姫香はんー、としばらく考える仕草をしていたが、やがて小さく微笑み首を振る。
「気にならないと言えば嘘になります」
　でも、と姫香は続ける。
「『眞我妻・姫香』が生まれたのは、今日なんです。
　私はそれまで、名も無き鋏角衆でした。この日、鋼誠様と養育係様が名前をつけて、『眞我妻・姫香』が生まれたんです」
　姫香が笑う。本当に嬉しい時に見せる、とびきりの笑顔で。
「だから…私は、今日が誕生日で、それで良いんです」
　鋼誠はそこまで聴くと、「そっか」と笑った。そして、姫香の頭を優しく撫でる。
「じゃ、いっか。姫香、誕生日おめでとうな」
「はい！」
　頭を撫でられた姫香は、可愛らしい鈴のような声で「えへへ」と笑った。

（…それにしても）
　美味しそうにケーキを食べる姫香を見ながら、鋼誠はふと思う。
（『眞我妻・姫香』が生まれた日、か…良かったぜ、上手い事当て字が思い付いて）
　そして、小さく溜息をついた。
（『禍ツ魔ノ鬼鋏』…コレが名前になって、「今日生まれました！」なんて明るく言ってたら、何となく可哀想だもんな）
　養育係の巫女が「駄目か？」と本気で不思議そうな顔をしたのを思い出し、鋼誠は何となく可笑しくなった。


いつかは書きたかった、姫香ちゃんの真名と誕生日の秘密。
ちなみに、姫香ちゃんが12歳というのも(上記の理由で)本当はおおよそだったりします。