TW2:シルバーレインのキャラに関するページ。ピンとこなかった人は今すぐ戻った方が良いかと…
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後は、任せろ。
俺はもう、大丈夫だ―
俺はもう、大丈夫だ―
・・・
●再会は突然に
(―コイツ、あの時と強さが変わってないな……)
刃が地縛霊の体を裂き、頭突きが頭をへこませる。
踏み込んだ足を引いた鋼誠は、敵の強さを冷静に捉え、これなら倒せると踏んだ。
だが、その矢先。
「―何!?」
不意に地縛霊の体に、活力が戻る。裂けた体が、へこんだ頭が元に戻る。
(回復?……コイツ、回復技なんか使えたのか……?)
ならば何度でも、と再び踏み込もうとした鋼誠の視界の端、薄暗い部屋の奥に新手の姿が見え―それは、妙にゆっくりとした口調で、言葉を発する。
「―何だ。その声、懐かしい気が、するな」
「っ!……ばかな……お前……!」
鬼面の奥の瞳が、驚愕に見開かれる。
腐敗によって所々が朽ちてはいるが、間違いない。胸に大穴のあいた、女性の姿。それは、鋼誠にとって忘れることのできない―
「グァアアアアア!」
「!」
奥の敵の姿に気を取られた鋼誠。その背後から、大柄な妖獣の太く鋭い爪が襲いかかる―!
●援軍は足早に
―時間は少し遡る。
神和神社に訪れた運命予報士の少女。彼女の話を聴いた5人は、受け取った地図を手に神社を飛び出していた。
「やっと鋼誠も、負担が減ったばっかりだって言うのに……!」
怒りとも焦りともとれる様子で呟きながら、先を急ぐ少女―嘉凪綾乃。
「急ぎましょう!」
(うろたえてもいられない。もし次の機会が来たら、絶対助けになって見せるって決めてたんだ!)
並走する少年―暮井牧人が、決意のこもった目で応える。
神社からはそう遠くなく、目的の山には間もなく到着した。急ぎ山道に入った一行を、見る間に増えゆく草木が阻む。だが、
「綾ちゃん、お願い!」
「皆……私達に力を貸して!」
山道に入ってから先頭に立った少女―渡会綾乃の声に呼応するかのように、植物たちが次々と頭を垂れるように曲がり、道を作っていく。
隠された森の小路の力によって見えた山道の跡を辿り、それほどの時間もかからず、一行は朽ちた寺の姿を目にすることができた。
「見えた……!」
「皆、イグニッションしろ。この先は敵の巣窟だ」
逸る者はいないな、と冷静に一行の顔色を確認した青年―功刀伊知郎が、イグニッションカードを取り出す。
「……大丈夫です、いつでも行けます」
それまで黙々と同行していた少年―九頭龍蓮汰が、カードを手に伊知郎の隣へ進み出る。残る3人も、各々の立ち位置へ動き陣形を整えると、カードを構えた。
「よし。皆、行くぞ―」
「[起動!]」
●登場は鮮烈に
「ち……」
致命的な一撃こそ避けたものの、鋼誠の纏う黒い羽織は大きく裂け、露出した肩口には大きな傷が刻まれていた。傷からは、決して少なくない出血も見られる。
(毒とかは無いみたいだな……だが、このままでは)
危ない。
完全に不意を突いた攻撃は、鋼誠を焦らせるに十分な威力であった。
(どうする……分身術を使えば、住職が呪詛を放つが……)
じり、と間合いをはかる鋼誠と、包囲を狭めようとする3体。
(―やむを得ん)
鋼誠が霧影分身術を使おうと、構えを取る。当然、眼前の地縛霊がそれを見過ごす筈もなく、呪詛を紡ぐべく口を開いた。どう避けるか、鋼誠が考えを巡らせながら霧を呼び―
「―え?」
部屋の入口の方から飛来した土蜘蛛の魂が武器に宿り、癒しの力の込められた札が傷に貼りつく。2つの力により傷はみるみる塞がり、体に活力が漲ってくる。不意に起こった事態に、鋼誠は呆けたような声を上げた。
「―鋼誠!大丈夫!?」
「鬼頭先輩っ!」
「鋼誠くん!」
「鋼誠、無事か?」
「……先輩!」
聞き慣れた声に慌てて振り向けば、見慣れた顔。5つの人影が、薄暗がりに割って入る。
「……道を、開けろ!」
呼気を整え気を練った蓮汰が飛び出し、一番手前に居た妖獣へと肉薄し床を思い切り踏みしめる。踏み込みから発せられた強烈な衝撃波が、振り向こうとした妖獣を壁まで吹き飛ばした。
「な、お前ら……」
鋼誠が面食らった様子で、5人を見やる。その脇をすり抜け、伊知郎が地縛霊に迫る。
「以前、此の剣を鋼誠の用命に応じて振るうと約束をしたのでな」
最も鋼誠自身の用命ではないが、という呟きと共に振り上げられる長剣が、紅蓮の炎に包まれる。地縛霊は、咄嗟に腕を上げ防御態勢を取るが―
「鋼誠くんの邪魔はさせない」
後方、『雲切』『音無』の二刀を構えた綾乃が、伊知郎の動きに合わせて自分の足元から影を伸ばす。
「私達が、道を切り開くんだ……!」
地縛霊がそちらに気付くより早く、伸びた影は腕の形を成し、炎の剣を受け止めた地縛霊の体を引き裂く!
●反撃は烈々に
「オオオオオオオオ!」
体を裂かれた地縛霊が叫び声を上げる。地獄の如きその叫びは、室内の能力者たちの体を砕かんと激しく震わせた。
「うわっ……」
「む……」
「くっ……」
反応の遅れた牧人と伊知郎が、襲い来る痛みに顔を顰める。蓮汰もまた、防御の姿勢を取ったもののその威力を完全には殺しきれなかった。さらに、
「くそ、地獄の叫びと同じか……」
祖霊降臨により加護を受けていた鋼誠が、それに反応し力を増した呪力に体を蝕まれる。
「ウグァアアアア!」
そしてそれに呼応するかのように、吹き飛ばされた妖獣が鋼誠に迫る。荒れ狂う暴風を纏い、鋼誠の体を今再び引き裂かんと飛びかかり爪を振るう。だが、
「……ぬるい!愚か者が!」
鋼誠が体を捻り、妖獣の巨大な爪を受け流す。高めた力の矛先を失った妖獣は、その反動で自身の体を傷つける結果となった。
「……ああ、なかなか、やるじゃないか。いや、こちらが、弱いのか?」
女性のリビングデッドが不意に、無表情のままに口を開く。そのまま日本刀を構えると、その場でくるり、と舞った。同時に寒気にも似たような力が周囲に満ち、地縛霊の傷が塞がったかと思えば、うずくまる妖獣が立ち唸り声を上げる。
「さあ、もっと、楽しませろ?」
「……話は後だな」
リビングデッドの動きを確認した鋼誠が、油断なく構えたままふう、と呼吸を整える。猛毒のような呪いが体を蝕むが、そんな事は些細なこととなった。何故なら、
「皆が来てくれた事に感謝だけして……改めていこう」
今は、一人ではないのだから。
「鬼蜘蛛の吼切、推して参る!」
●戦いは迅速に
「長引くと面倒じゃ、一気にケリをつけるぞ!」
体を蝕まれながらも、鋼誠は武器を振りかざした。それぞれの刃は、紅蓮の炎が宿り燃え盛る。
「……お前がやったかどうかは、問題ではない。形の上ではあるが……仇は、取らせてもらう」
燃え立つ刃が妖獣を捕え、続けざまの頭突きが妖獣の背骨を砕く。炎に包まれた妖獣は断末魔の叫びをあげると、そのまま燃え尽きるように消滅した。
「皆、大丈夫!?」
方春と鶯鳴、2本の榊を振るい綾乃が舞えば、地縛霊の叫びで傷ついた者たちは力を取り戻し、鋼誠と伊知郎の封じられた力も返る。
「くらえ!」
「倒れなさい!」
気の凝縮された蓮汰の指先が地縛霊を貫き、二刀を振るう綾乃の影の手が更に引き裂く。
「それっ!」
「終わりだ!」
牧人の呪殺符が地縛霊の体を破壊し、伊知郎の紅蓮撃がその身を焼き尽くす。
―これほどにも強力な仲間が揃い、何故彼らが負けようか?
死を履き違えた哀れな住職は、絆の力を前に、ついにその姿を消した。
●闘いは終末に
最後に残ったリビングデッドは、彼らの行動をただ傍観していた。その意図は分からないが、一行は態勢を整えるため一旦鋼誠を中心に集まった。
「……鋼誠くん、あのリビングデッドって……」
「……ああ。外見や傷の具合からすると、恐らく俺の養育係だった巫女だ」
息をのむ一行。ただ静かな空気を纏う鋼誠の、鬼面の奥の瞳はどのような色だろうか。
「……皆、頼みがある」
その言葉に、牧人は首を振る。わかっています、と。
「先輩が、終わらせなくちゃ!」
「そうだな、最後の花は鋼誠に持たせてやりたいものだ」
他の者たちも、その言葉に賛同する。
「……スマン。ありがとな」
仲間に背を向け、リビングデッドの元へ歩む鋼誠。
「頑張って、しっかりね!」
その背に、仲間の声と視線が投げかけられた。
「―久しぶりだな」
リビングデッドと向き合う鋼誠。
「久し、ぶり?……ああ、よく思い出せないが……懐かしい感じがするな、その声、その顔……知り合い、だろうか……」
リビングデッドは、胸の傷を中心に腐敗が進んでいる。滑舌が悪いのも、記憶が失われているのも、腐敗の進行に比例してのことだろうか。
「……何となく、頭に浮かぶ顔が、あるな……奴は、来ないのだろうか……」
表情も無く緩やかに言葉を紡ぐリビングデッドに、鋼誠が口を開きかける。だが、
「……奴の肉を、喰らいたい……」
その言葉に、鋼誠は語らうのを、辞めた。
「……さあ、闘おうぜ。一対一だ」
赤手の爪先に、焔が灯る。
「……いい、だろう。私は、強いぞ?」
抜き身の日本刀が閃き、型を崩した構えに収まる。
「「いくぞ!」」
●剣戟は壮烈に
一合。二合。刃が閃き、甲高い音を響かせる。
片や、多彩な型を持ち、相手を翻弄する生ける鬼。
片や、敢えて型を崩し、捉え所を見せぬ死せる巫。
互いの違いは何か?
生き死にか?
性別か?
力か?技か?
否。
それは―
「はあっ!」
鋼誠の、気魄を纏った爪が、技術を乗せた刃が閃く。しかし、巫女は刀を巧みに操り、その全てを捌いていく。
「どうした?それでは、当たらんぞ?」
緩やかな口調とは裏腹な、巫女の流麗な動き。回避の中に織り交ぜられる反撃を、鋼誠もまた紙一重でかわす。
「へっ、てめえも人の事は言えねえな!」
鬼面を被りながらも、口調を変えない鋼誠。本来の自分のまま―彼女とは、そう向き合うべきと考えての事だった。
「言うじゃ、ないか。なら、これは、どうかな?」
さらに複雑になる太刀筋。それに合わせるかのごとく、動きを切り替える鋼誠。
時にお互い正面から、時に予想外の方向から。
まるで狂った踊りのような闘いは、不意に飛び散る赤い飛沫が流れを止める。
「ちぃっ……!」
予想を覆すタイミングで放たれた鋭い突きが、鋼誠の肩を捉える。かわそうと後方に反らせた体を重力に任せ倒し、そのまま後方転回の要領で距離を取る。
「ふむ、捉え、損ねたか……」
「はっ……そう簡単に、致命傷もらってたまるかよ」
鋼誠はその場で動かず、霧を呼び出す。生じた力が傷を塞ぎ、鋼誠の体を二重に見せた。
「俺は負けない」
重心を低く構える。バネを縮めるように、鋼誠が飛び出すための力を蓄える。
「俺は今、お前を超える」
その呟きが、部屋に溶けると同時。裂帛の気合と共に、鋼誠は弾かれたように飛び出す!
「お前を!不死の呪縛から解き放つために!」
片や、生ける鬼。
片や、死せる巫。
その違いは、覚悟。
最大限の力を解き放つための、意志という名の鍵。
迎え撃つように放たれる、矢を模った力。乱暴に振るわれた赤手が、矢を打ち砕き霧散させる。
一息で懐に潜り込んだ鋼誠の手のひらに、体内の水分を練り上げたエネルギーが凝縮されていく。打ち込まれる掌打から直接流しこまれたエネルギーは、巫女の体を吹き飛ばし奥の仏像に打ちつけた。
「……!」
ゆらりと立ち上がり、蜘蛛の魂を刀に宿らせる巫女。束の間の空白、傷ついた体が修復される頃には、再び鋼誠が目前に立っていた。
「あるべき場所に―還れ!」
紅蓮の炎に包まれた、三種の武器。その全てが、ふらついた巫女の体に叩きこまれ―
「―ありがと、な」
●結末は沈痛に
「怪我は!?痛いところもないよね!?」
「……ああ。大丈夫だ」
数度の打合い。刃と刃の交わり。その末に最後まで立っていた鋼誠の表情は、鬼面に覆われて分からない。逆にはっきり分かるのは、室内の空気が戦闘前に比べ澄み、邪悪な気配が感じられないという事であった。
「……大丈夫だ。もう、大丈夫」
横たわる遺体。それを背に、呼吸を整える鋼誠。―やがてイグニッションを解いた彼は、いつもの明るい表情で皆に告げる。
「弔い、やり直したいんだ。手伝ってくれねえか?」
遺体の口元が微笑んでいるように見えたのは、果たして錯覚だろうか。
●弔いは同様に
「ここ?」
「ああ、そうだ」
廃寺の裏手。地滑りか何かがあったのか、鬱蒼とした木々は見当たらず視界は開けている。やや遠くに見える街並みが、景観の良さを感じさせる場所だった。
そして、その一角。何かを掘り返したような跡と、突き立てられた刀の鞘。
「もっとマシなところを探してもいいんだが……」
抱えた遺体に視線を投げかけ、鋼誠はふっと寂しげな笑みを浮かべた。
「きっと、『ここで良い』っていうさ。コイツは」
埋葬を終えた鋼誠はしばらく手を合わせていたが、やがて立ち上がると仲間の方へ振り返った。
「さて……お前ら、何でこんなとこにいるんだ?」
「あ、そっか。えっとね……」
綾乃たちは説明を始める。運命予報士の少女の事。少女の視た、運命予報の事。
「因縁の場所に単独行動。……軽率だと思います」
後から話を聞いて心配してる人もいるんですよ、と蓮汰が責めるような口調で言いながら、携帯のメールを鋼誠に見せる。
「や、当初は戦う事になるとは思ってなかったからなー……」
まいったなこりゃ、と苦笑を浮かべる鋼誠は、
「……みんな、ありがとな」
素直に礼を述べると、頭を下げたのだった。
●墓参は静粛に、そして誓いは青空に
「……あの、俺も拝んで……いいでしょうか?」
牧人が提案すると、周りの者もそれに賛同する。
「ああ、そうしてやってくれ。きっと、その方がアイツも喜ぶ」
鋼誠は申し出を快く受け入れ、墓標代わりの刀の前を空ける。一同は刀の前にしゃがみこむと、それぞれに拝み始めた。
「……花でも摘んできます」
いち早く黙祷を済ませた蓮汰が、適当な花を探しに行く。
「貴女のお蔭で私達は鋼誠と出会える事が出来ました。……ありがとうございます」
礼を述べた綾乃が、安心したように拝む。
(先輩も、あなたも。いつか笑顔になれますように)
牧人が、声には出さず祈りを捧げる。
「……」
事後のフォローは皆に、と考えていた伊知郎も、黙って手を合わせる。
「貴女の死出の旅路に、自然の加護がありますよう……」
綾乃が一生懸命に、旅路の無事を祈る。
「……なあ、良い奴らだろ?こいつらだけじゃない。いろんな仲間が、今の俺にはいるんだぜ。
あの時は駄目だったけどよ。今なら大丈夫だ。きっと……どんな事も乗り越えて、笑ってみせる。
前を向いて、どこまでも生きてみせるさ」
鋼誠が、大切な仲間たちの背を見ながら、一人呟く。やがて、ふと空を仰いだ彼は、蒼い空の眩しさに目を細めながら、
「……へっ、今日は暑いな。汗が止まらねえや」
わずかに震える声で、零れる熱い雫を拭いもせず、呟いた。
・・・・・
笑えよ。
男子たるもの、しょぼくれた顔をするものじゃない。
たとえ今は無理でも、いつか乗り越えられたら。
その時は、笑って、前を向いて進め。
過去を忘れろとは言わない。だが、囚われてはいけない。
全てはお前のもの。お前の糧。
向き合って、優しく抱いて。
そして……強く、生きろ。
・・・
…はい、まさかのディレクターズカット版です。
原本はこちらだったのですが、カットした理由がいくつか。
1つは、鋼誠VS巫女のシーンが完全に鋼誠君の私闘だった事。
1つは、最後は巫女の言葉のため、ブログを見ていない人を考慮した結果。
そしてもう1つ…文字数です(半角文字分を考慮しても6千文字若干超えました)。
ただ、やっぱりこちらも公開するべきかと思いましてネ…
では最後に、今一度。
この度は、個人企画にご参加くださいました皆さん。
多大な協力をして頂きました神和神社様。
本当に、ありがとうございました。
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●再会は突然に
(―コイツ、あの時と強さが変わってないな……)
刃が地縛霊の体を裂き、頭突きが頭をへこませる。
踏み込んだ足を引いた鋼誠は、敵の強さを冷静に捉え、これなら倒せると踏んだ。
だが、その矢先。
「―何!?」
不意に地縛霊の体に、活力が戻る。裂けた体が、へこんだ頭が元に戻る。
(回復?……コイツ、回復技なんか使えたのか……?)
ならば何度でも、と再び踏み込もうとした鋼誠の視界の端、薄暗い部屋の奥に新手の姿が見え―それは、妙にゆっくりとした口調で、言葉を発する。
「―何だ。その声、懐かしい気が、するな」
「っ!……ばかな……お前……!」
鬼面の奥の瞳が、驚愕に見開かれる。
腐敗によって所々が朽ちてはいるが、間違いない。胸に大穴のあいた、女性の姿。それは、鋼誠にとって忘れることのできない―
「グァアアアアア!」
「!」
奥の敵の姿に気を取られた鋼誠。その背後から、大柄な妖獣の太く鋭い爪が襲いかかる―!
●援軍は足早に
―時間は少し遡る。
神和神社に訪れた運命予報士の少女。彼女の話を聴いた5人は、受け取った地図を手に神社を飛び出していた。
「やっと鋼誠も、負担が減ったばっかりだって言うのに……!」
怒りとも焦りともとれる様子で呟きながら、先を急ぐ少女―嘉凪綾乃。
「急ぎましょう!」
(うろたえてもいられない。もし次の機会が来たら、絶対助けになって見せるって決めてたんだ!)
並走する少年―暮井牧人が、決意のこもった目で応える。
神社からはそう遠くなく、目的の山には間もなく到着した。急ぎ山道に入った一行を、見る間に増えゆく草木が阻む。だが、
「綾ちゃん、お願い!」
「皆……私達に力を貸して!」
山道に入ってから先頭に立った少女―渡会綾乃の声に呼応するかのように、植物たちが次々と頭を垂れるように曲がり、道を作っていく。
隠された森の小路の力によって見えた山道の跡を辿り、それほどの時間もかからず、一行は朽ちた寺の姿を目にすることができた。
「見えた……!」
「皆、イグニッションしろ。この先は敵の巣窟だ」
逸る者はいないな、と冷静に一行の顔色を確認した青年―功刀伊知郎が、イグニッションカードを取り出す。
「……大丈夫です、いつでも行けます」
それまで黙々と同行していた少年―九頭龍蓮汰が、カードを手に伊知郎の隣へ進み出る。残る3人も、各々の立ち位置へ動き陣形を整えると、カードを構えた。
「よし。皆、行くぞ―」
「[起動!]」
●登場は鮮烈に
「ち……」
致命的な一撃こそ避けたものの、鋼誠の纏う黒い羽織は大きく裂け、露出した肩口には大きな傷が刻まれていた。傷からは、決して少なくない出血も見られる。
(毒とかは無いみたいだな……だが、このままでは)
危ない。
完全に不意を突いた攻撃は、鋼誠を焦らせるに十分な威力であった。
(どうする……分身術を使えば、住職が呪詛を放つが……)
じり、と間合いをはかる鋼誠と、包囲を狭めようとする3体。
(―やむを得ん)
鋼誠が霧影分身術を使おうと、構えを取る。当然、眼前の地縛霊がそれを見過ごす筈もなく、呪詛を紡ぐべく口を開いた。どう避けるか、鋼誠が考えを巡らせながら霧を呼び―
「―え?」
部屋の入口の方から飛来した土蜘蛛の魂が武器に宿り、癒しの力の込められた札が傷に貼りつく。2つの力により傷はみるみる塞がり、体に活力が漲ってくる。不意に起こった事態に、鋼誠は呆けたような声を上げた。
「―鋼誠!大丈夫!?」
「鬼頭先輩っ!」
「鋼誠くん!」
「鋼誠、無事か?」
「……先輩!」
聞き慣れた声に慌てて振り向けば、見慣れた顔。5つの人影が、薄暗がりに割って入る。
「……道を、開けろ!」
呼気を整え気を練った蓮汰が飛び出し、一番手前に居た妖獣へと肉薄し床を思い切り踏みしめる。踏み込みから発せられた強烈な衝撃波が、振り向こうとした妖獣を壁まで吹き飛ばした。
「な、お前ら……」
鋼誠が面食らった様子で、5人を見やる。その脇をすり抜け、伊知郎が地縛霊に迫る。
「以前、此の剣を鋼誠の用命に応じて振るうと約束をしたのでな」
最も鋼誠自身の用命ではないが、という呟きと共に振り上げられる長剣が、紅蓮の炎に包まれる。地縛霊は、咄嗟に腕を上げ防御態勢を取るが―
「鋼誠くんの邪魔はさせない」
後方、『雲切』『音無』の二刀を構えた綾乃が、伊知郎の動きに合わせて自分の足元から影を伸ばす。
「私達が、道を切り開くんだ……!」
地縛霊がそちらに気付くより早く、伸びた影は腕の形を成し、炎の剣を受け止めた地縛霊の体を引き裂く!
●反撃は烈々に
「オオオオオオオオ!」
体を裂かれた地縛霊が叫び声を上げる。地獄の如きその叫びは、室内の能力者たちの体を砕かんと激しく震わせた。
「うわっ……」
「む……」
「くっ……」
反応の遅れた牧人と伊知郎が、襲い来る痛みに顔を顰める。蓮汰もまた、防御の姿勢を取ったもののその威力を完全には殺しきれなかった。さらに、
「くそ、地獄の叫びと同じか……」
祖霊降臨により加護を受けていた鋼誠が、それに反応し力を増した呪力に体を蝕まれる。
「ウグァアアアア!」
そしてそれに呼応するかのように、吹き飛ばされた妖獣が鋼誠に迫る。荒れ狂う暴風を纏い、鋼誠の体を今再び引き裂かんと飛びかかり爪を振るう。だが、
「……ぬるい!愚か者が!」
鋼誠が体を捻り、妖獣の巨大な爪を受け流す。高めた力の矛先を失った妖獣は、その反動で自身の体を傷つける結果となった。
「……ああ、なかなか、やるじゃないか。いや、こちらが、弱いのか?」
女性のリビングデッドが不意に、無表情のままに口を開く。そのまま日本刀を構えると、その場でくるり、と舞った。同時に寒気にも似たような力が周囲に満ち、地縛霊の傷が塞がったかと思えば、うずくまる妖獣が立ち唸り声を上げる。
「さあ、もっと、楽しませろ?」
「……話は後だな」
リビングデッドの動きを確認した鋼誠が、油断なく構えたままふう、と呼吸を整える。猛毒のような呪いが体を蝕むが、そんな事は些細なこととなった。何故なら、
「皆が来てくれた事に感謝だけして……改めていこう」
今は、一人ではないのだから。
「鬼蜘蛛の吼切、推して参る!」
●戦いは迅速に
「長引くと面倒じゃ、一気にケリをつけるぞ!」
体を蝕まれながらも、鋼誠は武器を振りかざした。それぞれの刃は、紅蓮の炎が宿り燃え盛る。
「……お前がやったかどうかは、問題ではない。形の上ではあるが……仇は、取らせてもらう」
燃え立つ刃が妖獣を捕え、続けざまの頭突きが妖獣の背骨を砕く。炎に包まれた妖獣は断末魔の叫びをあげると、そのまま燃え尽きるように消滅した。
「皆、大丈夫!?」
方春と鶯鳴、2本の榊を振るい綾乃が舞えば、地縛霊の叫びで傷ついた者たちは力を取り戻し、鋼誠と伊知郎の封じられた力も返る。
「くらえ!」
「倒れなさい!」
気の凝縮された蓮汰の指先が地縛霊を貫き、二刀を振るう綾乃の影の手が更に引き裂く。
「それっ!」
「終わりだ!」
牧人の呪殺符が地縛霊の体を破壊し、伊知郎の紅蓮撃がその身を焼き尽くす。
―これほどにも強力な仲間が揃い、何故彼らが負けようか?
死を履き違えた哀れな住職は、絆の力を前に、ついにその姿を消した。
●闘いは終末に
最後に残ったリビングデッドは、彼らの行動をただ傍観していた。その意図は分からないが、一行は態勢を整えるため一旦鋼誠を中心に集まった。
「……鋼誠くん、あのリビングデッドって……」
「……ああ。外見や傷の具合からすると、恐らく俺の養育係だった巫女だ」
息をのむ一行。ただ静かな空気を纏う鋼誠の、鬼面の奥の瞳はどのような色だろうか。
「……皆、頼みがある」
その言葉に、牧人は首を振る。わかっています、と。
「先輩が、終わらせなくちゃ!」
「そうだな、最後の花は鋼誠に持たせてやりたいものだ」
他の者たちも、その言葉に賛同する。
「……スマン。ありがとな」
仲間に背を向け、リビングデッドの元へ歩む鋼誠。
「頑張って、しっかりね!」
その背に、仲間の声と視線が投げかけられた。
「―久しぶりだな」
リビングデッドと向き合う鋼誠。
「久し、ぶり?……ああ、よく思い出せないが……懐かしい感じがするな、その声、その顔……知り合い、だろうか……」
リビングデッドは、胸の傷を中心に腐敗が進んでいる。滑舌が悪いのも、記憶が失われているのも、腐敗の進行に比例してのことだろうか。
「……何となく、頭に浮かぶ顔が、あるな……奴は、来ないのだろうか……」
表情も無く緩やかに言葉を紡ぐリビングデッドに、鋼誠が口を開きかける。だが、
「……奴の肉を、喰らいたい……」
その言葉に、鋼誠は語らうのを、辞めた。
「……さあ、闘おうぜ。一対一だ」
赤手の爪先に、焔が灯る。
「……いい、だろう。私は、強いぞ?」
抜き身の日本刀が閃き、型を崩した構えに収まる。
「「いくぞ!」」
●剣戟は壮烈に
一合。二合。刃が閃き、甲高い音を響かせる。
片や、多彩な型を持ち、相手を翻弄する生ける鬼。
片や、敢えて型を崩し、捉え所を見せぬ死せる巫。
互いの違いは何か?
生き死にか?
性別か?
力か?技か?
否。
それは―
「はあっ!」
鋼誠の、気魄を纏った爪が、技術を乗せた刃が閃く。しかし、巫女は刀を巧みに操り、その全てを捌いていく。
「どうした?それでは、当たらんぞ?」
緩やかな口調とは裏腹な、巫女の流麗な動き。回避の中に織り交ぜられる反撃を、鋼誠もまた紙一重でかわす。
「へっ、てめえも人の事は言えねえな!」
鬼面を被りながらも、口調を変えない鋼誠。本来の自分のまま―彼女とは、そう向き合うべきと考えての事だった。
「言うじゃ、ないか。なら、これは、どうかな?」
さらに複雑になる太刀筋。それに合わせるかのごとく、動きを切り替える鋼誠。
時にお互い正面から、時に予想外の方向から。
まるで狂った踊りのような闘いは、不意に飛び散る赤い飛沫が流れを止める。
「ちぃっ……!」
予想を覆すタイミングで放たれた鋭い突きが、鋼誠の肩を捉える。かわそうと後方に反らせた体を重力に任せ倒し、そのまま後方転回の要領で距離を取る。
「ふむ、捉え、損ねたか……」
「はっ……そう簡単に、致命傷もらってたまるかよ」
鋼誠はその場で動かず、霧を呼び出す。生じた力が傷を塞ぎ、鋼誠の体を二重に見せた。
「俺は負けない」
重心を低く構える。バネを縮めるように、鋼誠が飛び出すための力を蓄える。
「俺は今、お前を超える」
その呟きが、部屋に溶けると同時。裂帛の気合と共に、鋼誠は弾かれたように飛び出す!
「お前を!不死の呪縛から解き放つために!」
片や、生ける鬼。
片や、死せる巫。
その違いは、覚悟。
最大限の力を解き放つための、意志という名の鍵。
迎え撃つように放たれる、矢を模った力。乱暴に振るわれた赤手が、矢を打ち砕き霧散させる。
一息で懐に潜り込んだ鋼誠の手のひらに、体内の水分を練り上げたエネルギーが凝縮されていく。打ち込まれる掌打から直接流しこまれたエネルギーは、巫女の体を吹き飛ばし奥の仏像に打ちつけた。
「……!」
ゆらりと立ち上がり、蜘蛛の魂を刀に宿らせる巫女。束の間の空白、傷ついた体が修復される頃には、再び鋼誠が目前に立っていた。
「あるべき場所に―還れ!」
紅蓮の炎に包まれた、三種の武器。その全てが、ふらついた巫女の体に叩きこまれ―
「―ありがと、な」
●結末は沈痛に
「怪我は!?痛いところもないよね!?」
「……ああ。大丈夫だ」
数度の打合い。刃と刃の交わり。その末に最後まで立っていた鋼誠の表情は、鬼面に覆われて分からない。逆にはっきり分かるのは、室内の空気が戦闘前に比べ澄み、邪悪な気配が感じられないという事であった。
「……大丈夫だ。もう、大丈夫」
横たわる遺体。それを背に、呼吸を整える鋼誠。―やがてイグニッションを解いた彼は、いつもの明るい表情で皆に告げる。
「弔い、やり直したいんだ。手伝ってくれねえか?」
遺体の口元が微笑んでいるように見えたのは、果たして錯覚だろうか。
●弔いは同様に
「ここ?」
「ああ、そうだ」
廃寺の裏手。地滑りか何かがあったのか、鬱蒼とした木々は見当たらず視界は開けている。やや遠くに見える街並みが、景観の良さを感じさせる場所だった。
そして、その一角。何かを掘り返したような跡と、突き立てられた刀の鞘。
「もっとマシなところを探してもいいんだが……」
抱えた遺体に視線を投げかけ、鋼誠はふっと寂しげな笑みを浮かべた。
「きっと、『ここで良い』っていうさ。コイツは」
埋葬を終えた鋼誠はしばらく手を合わせていたが、やがて立ち上がると仲間の方へ振り返った。
「さて……お前ら、何でこんなとこにいるんだ?」
「あ、そっか。えっとね……」
綾乃たちは説明を始める。運命予報士の少女の事。少女の視た、運命予報の事。
「因縁の場所に単独行動。……軽率だと思います」
後から話を聞いて心配してる人もいるんですよ、と蓮汰が責めるような口調で言いながら、携帯のメールを鋼誠に見せる。
「や、当初は戦う事になるとは思ってなかったからなー……」
まいったなこりゃ、と苦笑を浮かべる鋼誠は、
「……みんな、ありがとな」
素直に礼を述べると、頭を下げたのだった。
●墓参は静粛に、そして誓いは青空に
「……あの、俺も拝んで……いいでしょうか?」
牧人が提案すると、周りの者もそれに賛同する。
「ああ、そうしてやってくれ。きっと、その方がアイツも喜ぶ」
鋼誠は申し出を快く受け入れ、墓標代わりの刀の前を空ける。一同は刀の前にしゃがみこむと、それぞれに拝み始めた。
「……花でも摘んできます」
いち早く黙祷を済ませた蓮汰が、適当な花を探しに行く。
「貴女のお蔭で私達は鋼誠と出会える事が出来ました。……ありがとうございます」
礼を述べた綾乃が、安心したように拝む。
(先輩も、あなたも。いつか笑顔になれますように)
牧人が、声には出さず祈りを捧げる。
「……」
事後のフォローは皆に、と考えていた伊知郎も、黙って手を合わせる。
「貴女の死出の旅路に、自然の加護がありますよう……」
綾乃が一生懸命に、旅路の無事を祈る。
「……なあ、良い奴らだろ?こいつらだけじゃない。いろんな仲間が、今の俺にはいるんだぜ。
あの時は駄目だったけどよ。今なら大丈夫だ。きっと……どんな事も乗り越えて、笑ってみせる。
前を向いて、どこまでも生きてみせるさ」
鋼誠が、大切な仲間たちの背を見ながら、一人呟く。やがて、ふと空を仰いだ彼は、蒼い空の眩しさに目を細めながら、
「……へっ、今日は暑いな。汗が止まらねえや」
わずかに震える声で、零れる熱い雫を拭いもせず、呟いた。
・・・・・
笑えよ。
男子たるもの、しょぼくれた顔をするものじゃない。
たとえ今は無理でも、いつか乗り越えられたら。
その時は、笑って、前を向いて進め。
過去を忘れろとは言わない。だが、囚われてはいけない。
全てはお前のもの。お前の糧。
向き合って、優しく抱いて。
そして……強く、生きろ。
・・・
…はい、まさかのディレクターズカット版です。
原本はこちらだったのですが、カットした理由がいくつか。
1つは、鋼誠VS巫女のシーンが完全に鋼誠君の私闘だった事。
1つは、最後は巫女の言葉のため、ブログを見ていない人を考慮した結果。
そしてもう1つ…文字数です(半角文字分を考慮しても6千文字若干超えました)。
ただ、やっぱりこちらも公開するべきかと思いましてネ…
では最後に、今一度。
この度は、個人企画にご参加くださいました皆さん。
多大な協力をして頂きました神和神社様。
本当に、ありがとうございました。
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ここの管理人
HN:
蛍月
性別:
男性
自己紹介:
このブログを管理する者であり、柚之葉・薫(b68352)と鬼頭・鋼誠(b70561)と眞我妻・姫香(b76235)と玉城・曜子(b76893)の背後に当たる人。大体男2人に滅多打ちにされてる。
※このブログで使用されるキャラクターイラストは、株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』用のイラストとして、管理人『蛍月』が作成を依頼したものです。
イラストの使用権は管理人『蛍月』に、著作権は各イラストマスター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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